睡眠不足が薄毛や抜け毛の原因の一つであることは確かですが、「しっかり眠るようにすれば、どんな薄毛も治る」というわけではありません。睡眠改善は非常に重要な対策ですが、それだけでは効果が限定的な、あるいは改善が難しいタイプの薄毛も存在します。その代表例が、「AGA(男性型脱毛症)」です。AGAは、遺伝的要因と男性ホルモンDHTの影響によって進行する脱毛症です。睡眠不足がAGAの進行を助長する可能性はありますが、睡眠を改善しただけでAGAの原因そのものがなくなるわけではありません。AGAの進行を抑制するためには、DHTの生成を抑える内服薬(フィナステリド、デュタステリド)や、発毛を促すミノキシジルといった、医学的な治療が必要となる場合がほとんどです。同様に、女性の「FAGA(女性男性型脱毛症)」も、ホルモンバランスの変化や遺伝的要因が大きく関わっているため、睡眠改善だけでの根本的な解決は難しいと考えられます。また、「円形脱毛症」も、睡眠不足やストレスが発症の引き金や悪化要因となることはありますが、主な原因は自己免疫疾患と考えられています。そのため、治療にはステロイドなどが用いられ、睡眠改善はあくまで補助的なケアとなります。「病気が原因の脱毛」も、睡眠改善だけでは治りません。例えば、甲状腺機能の異常や貧血、膠原病などが原因で薄毛になっている場合は、まず原因となっている病気自体の治療が必要です。原因疾患が改善されれば、脱毛も回復に向かうことが期待できます。さらに、「栄養不足」が深刻な場合も、睡眠だけでは髪は育ちません。髪の材料となるタンパク質や、成長に必要なビタミン、ミネラルが極端に不足している場合は、まずバランスの取れた食事や栄養補給によって、体に必要な栄養を満たすことが先決です。もちろん、どのようなタイプの薄毛であっても、質の高い睡眠をとることは、頭皮環境を整え、髪の成長をサポートする上でプラスになります。しかし、もし睡眠を十分に取るようにしても、抜け毛が減らない、薄毛が進行していく、あるいは円形脱毛のような症状が見られる場合は、睡眠不足以外の原因が強く関与している可能性が高いです。自己判断せず、早めに皮膚科などの専門医に相談し、正確な原因診断を受けることが重要です。