男性で、つむじ周りの薄毛、いわゆる「つむじはげ」が気になり始めた場合、その最も有力な原因として考えられるのがAGA（男性型脱毛症）です。AGAは、遺伝的な要因と男性ホルモンの影響によって引き起こされる進行性の脱毛症であり、成人男性の薄毛の大多数を占めると言われています。AGAのメカニズムには、DHT（ジヒドロテストステロン）という強力な男性ホルモンが深く関わっています。体内の男性ホルモン「テストステロン」が、「5αリダクターゼ」という酵素によってDHTに変換されます。このDHTが、毛根にある「アンドロゲンレセプター」という受け皿に結合すると、髪の毛の成長サイクル（ヘアサイクル）に悪影響を及ぼすシグナルが送られてしまいます。具体的には、髪が太く長く成長する「成長期」が、通常よりも大幅に短縮されてしまうのです。本来なら数年間続くはずの成長期が、数ヶ月から1年程度になってしまうこともあります。その結果、髪の毛は十分に成長する前に、細く短い「軟毛」の状態で抜け落ちてしまいます。このプロセスが繰り返されることで、徐々に髪の毛の密度が低下し、地肌が透けて見えるようになるのです。そして、このAGAの影響を受けやすいアンドロゲンレセプターは、頭部の毛根の中でも特に「前頭部（生え際）」と「頭頂部（つむじ周辺）」に多く存在しています。そのため、AGAの症状は、これらの部位から進行しやすいという特徴があります。つむじ周りの毛根がDHTの影響を受け始めると、髪の軟毛化が進み、徐々に地肌が見える範囲が広がっていく、いわゆる「O字型」の薄毛パターンが現れるのです。AGAは進行性であり、自然に治ることはありません。放置しておくと、薄毛はゆっくりと、しかし確実に進行していきます。つむじ周りの変化が気になり始めたら、AGAの可能性を考え、早めに専門医に相談し、適切な対策や治療を検討することが非常に重要となります。