「栄養バランスの取れた食事が髪に良い」ということは、多くの人が漠然と知っています。しかし、具体的にどのようなメカニズムで栄養不足が抜け毛を引き起こすのかを理解すると、日々の食事への意識は大きく変わるはずです。髪の毛は、頭皮の奥深くにある「毛母細胞」が細胞分裂を繰り返すことによって作られます。この毛母細胞が活発に活動するためには、血液を通じて絶えず栄養と酸素が供給される必要があります。つまり、私たちの食生活は、この毛母細胞の働き、ひいては髪の健康そのものを直接左右しているのです。まず、極端な食事制限や偏った食事によって栄養が不足すると、体は生命維持に必要な臓器、例えば心臓や脳などに優先的に栄養を送ろうとします。髪の毛は、生命維持の観点からは優先順位が低いため、栄養供給が後回しにされがちです。その結果、毛母細胞は栄養不足に陥り、細胞分裂の活動が鈍化してしまいます。これにより、新しく生えてくる髪が細くなったり、十分に成長しきる前に抜け落ちてしまう「成長期」の短縮が起こり、抜け毛の増加に繋がるのです。また、髪の主成分であるタンパク質が不足すれば、髪の材料そのものが足りない状態になります。これでは、丈夫で健康な髪を作ることはできません。さらに、栄養不足は頭皮環境の悪化も招きます。例えば、ビタミンB群が不足すると、皮脂の分泌バランスが崩れ、頭皮が脂っぽくなったり、逆に乾燥してフケが出やすくなったりします。不健康な頭皮は、いわば作物が育たない痩せた土地のようなもの。そこからは、太く健康な髪は生えてきません。鉄分が不足すれば、血行が悪化し、毛母細胞へ栄養を運ぶ血液の流れそのものが滞ってしまいます。このように、栄養不足は「髪の材料不足」「毛母細胞の活動低下」「頭皮環境の悪化」という三つの側面から、複合的に抜け毛を促進させるのです。健やかな髪は、健康な体と頭皮から。その全ての源が、日々の食事にあることを忘れてはなりません。